Chapter7 「私は過去は振り返らない男」
かつて私はバンドを組んでいた。遠い、昔の話だ。
私は主にボーカル担当だった。
ライブでは曲と曲の合間にMCという喋りタイムが挟まれる。
MCとはmaster of ceremonyの略で司会進行という意味らしい。
本来はバンドや曲の説明をしたりする時間なのだろうが、バンドの雰囲気や流れを作るうえでそれだけではない要素も含んでいる。
これがなかなか難しく、特にコミュニケーション障害の私にとってこれは大きな問題となった。
大物バンドになれば「お前らのこと!犯してやるぜ!」とでも言っておけば客は大いに盛り上がりそれだけで何とかなるのだが、小さなバンドがそんなことを言えば大ケガをしてしまう。
かといって
「ハァハァ・・・・ん・・・・ハァハァ・・・皆、今の演奏、心に届いたかな。俺たち最後まで一生懸命演奏するんでぇ、聞いてください。○○(曲名)ジャラーン」
とかいうのもそれは違う。もう全然違う。そんなこと言うくらいならハラキリしたほうがましだ。
いろいろ考えてMCをする。
時として「瀕死の重体」となり、打ち上げの発泡酒に涙をカクテルする悲惨な結末を迎えることもあったが、死の淵から甦る度にメンタルは強くなっていった。
不死鳥のように喋ることによって自分の身を焼き、そして何度でも甦る。それが私「フェニックス後藤」最大の奥義だった。
でも死ぬことに慣れただけで結局喋りはうまくならなかった。人はそれぞれ生まれ持って得意なこと、また不得意なことがあるのだということを悟った。みんな違って皆いい。
今も喋りはうまくならないがこういうくだらないことを考えることだけは上手くなった。思えばあの経験も今の私を構成している大切なエレメントだと言えよう。
もう沢山だ・・・・・・!! もうこりごりだ・・・・・・!! 幾度もそう思ったハズなのに――― もうこんなにMCしたい。
そういえば今年度のサークルの追い出しコンサートはいつになるのかなぁ。チラ(:3)| ̄|_